「はやく相続の問題を終わらせて、おだやかな日常に戻りたかった…」
相続トラブルの相談メールが来たのは昨年末のこと。
連絡してきたのは、小林和代さん(仮名・62歳)でした。
「私は2人兄弟の妹です。父は20年前に89歳で他界しました。今は残された母と一緒に静かに暮らしています。
もう母も長くないので、これから先の人生を考え、相続予定の13室あるRC4階建てのアパートの相続について相談させてください。」
すぐに小林さんにお会いして、詳しく話を聞いてみると、
「実は、兄とモメていまして。。。」と打ち明けてくれました。
「兄は不動産を残したい。」「私は処分したい。」
小林さんはお母様と一緒に相続予定のアパートに一緒に住んでおり、
自分の時間を削りながら、お母様の介護を続けていました。
トラブルになっている実の兄も、訳あって同じアパートの違う部屋に住んでいましたが、
お母様の面倒を見ることは、一切ありませんでした。
「兄とのトラブルの原因は、
今住んでいるアパートをどうするか意見が割れてしまったことによります…」
小林さんはそのアパートを最終的に売りたいと考えていましたが、
お兄様は引き続き、そこに住み続けたいと考えていました。
お兄様は財産分与の話をしてもまったく聞き耳を持たず、
何か話すと喚き散らし、すぐに電話を切ってしまいます。
アパートの具体的な評価額も分からず、
誰に相談して良いかも分からない。
小林さんは途方に暮れていました。
このままお兄様と意見がすれ違い
心のストレスを抱えたまま、無駄な時間が過ぎていく。
そうこうしている間に、もしお母様がなくなってしまったら…
「はやく相続の問題を終わらせて、穏やかな日常に戻りたい…」
小林さんはそんな不安を抱えてつつ、私に連絡してきたのでした。
ウィスキーボトルを片手にお兄様の玄関の戸を叩くも、
小林さんの兄は、若い頃に結婚をし子供を設けていましたが、
その後離婚し、シングルファーザーとして子供を育てていました。
しかし父親としてきちんと子育てができていたかというと必ずしもそうではなく、
その子の将来のことを想い、伯母にあたる小林さんが彼を預かることになりました。
ここから、兄の息子と小林さんとの暮らしが始まったのでした。
そういった特殊な背景もあり、小林さんとしては
母親が残してくれる遺産を一切兄に譲る気はありませんでした。
(小林さんが母親の介護をすべて背負っていたこともあります。)
遺産分割書をまとめる必要がありましたが、
小林さんと兄が遺産分割の話をすると必ずモメてしまうので、
私(竹内)がお兄様に会いに行くことになりました。
あらかじめ、アポイントを取った上で会いに行ったのですが、
トラブルになることは避けられそうもなく、
私は万が一のことも想定しながら、ウィスキーボトルを片手にお兄様の玄関の戸を叩きました。
案の定、お兄様とは落ち着いた話し合いができず、
途中何度も机をバンバンと叩き激昂する場面もありました。
「お前は妹の差し金か???」
そんな言葉も発せられ、今振り返っても肝を冷やします。
その後何度も何度もお兄様とお会いし会話を重ねることで、
少しづつ信頼を寄せていただけるようになりました。
結局、小林さんとお兄様との分割は7:1に決まり、
二人の長く続いた相続の争いも終わることとなりました。
あの時の小林さんの気持ちは、どんな気持ちだったのでしょうか。
その後、何年経ったでしょうか。
私の実の母が亡くなりお通夜があったのですが、
なんの前触れもなく、小林さんがふと現れ焼香をして帰って行きました。
あの時の小林さんの気持ちは、どんな気持ちだったのでしょうか。